卒業
2019年03月11日
誰もいなくなった教室で独り、ボーっと黒板を眺めてみた。
みんなが思い思いの言葉を残している。教壇の下に色とりどりのチョークの粉が溜まっている。
未だにアルバムの最後のページは空白のままだった。自分で「よく頑張ったな」って書こうとしたが、
何かが引っかかってペンを執るのをやめた。
制服の裾が少しよれている。使い込んだシューズは元の鮮やかさを思い出せぬほどだ。
体育館、汗とエアーサロンパスの匂い。ボールが跳ねる音。
校庭、甲高い打球音。舞う砂ぼこり。
例えば別の道を選んだとして、同じようにノスタルジーに浸る日が来ただろうか。
今の幸せを捨てたっていつかは別の幸せを得られる。
失くしたものを埋めることはいつでもできる。
でも、今だけは胸に残った穴を撫でていたいから、
少しだけ、泣くことにしたんだ。