【Ravenous】
2021年09月08日
『思い出した。』
「やっとかい。随分と待ったもんだ。」
『心配をかけた。もう大丈夫だ。』
「そうかい。期待しないでおくよ。」
幾百年後。心臓の鼓動は規則的に四肢の末端まで何かを巡らせている。
かの大陸で以前は通信機器として用いられていたが、今では得体の知れない生命体の胴体を貫く矛となっている。
「何を見ていたんだい?」
『・・・よくわからないが、私の記録には無いものだった。』
「君はまだ日が浅い。よく在ることだ。気にするな。」
『そうか。ただ、なんというか』
「・・・」
『凄く、胸部の中心を何が動かされているような。伝えるのが難しいが』
「貪欲 」
『それはなんだ?』
「私たちの母が使っていた言葉だ。まさしく今の君に相応しい」
『・・・最後に良い土産が出来た。伝えておこう』
「そうするといい。なら私も最後にもう一つだけ。」
「目を醒ますことはすなわち、その痛みを忘れてはいけない」
『それも母の言葉か。』
「いや、これは私の言葉だ。」
途端、部屋中に甲高い金属音が鳴り響く。
「時間だ。名前など無い私たちではあるが、この世界は住みやすい。」
『それがどうとも度し難いのだ。』
「・・・。」
『せめて、貴方を呼んでみたかった。母のように。』
「私もだ。」
熱。すべての物質を解き、始まりへ還すその光はかつて人だった者たちが残した。
「叫び続けろ。」
「何度も、何度も、何度も。忘れるな。君であったものもそう望んでいる。」
『・・・そうするとしよう。』
「では。さらばだ。」
『良い旅を。』
何もない。
音も光も。
ただ、そこから何かが始まった。