【追憶】

2019年11月19日

『あれ、また背伸びた?』
彼女は僕を見る度にそう言ってくる。
「ばかだなあ。昨日会ったばかりだろう。」
茶色くなったくせっ毛を掻きながら「あれ~そうだっけ」とわざとらしくとぼけるんだ。
11月、少し肌寒くなってきた。高校って屋上に行けるもんだと思ってたんだけどなあ。
『でもさあ、屋上じゃなくたっていいじゃん。私はあんたと居れるならどこでも屋上みたいなもんだぜ。』
「それってどういうことだよ。僕はこんな薄汚い部室裏、そんなに好きじゃないんだけど。」
『にしし、まあそういうなって。残り僅かな学生生活だぜ?余すとこ無く楽しんでこうよ。』
「むしろ残り僅かだからこそやばいんだろ。君はもっと焦った方がいいよ。」
『ああああ聞きたくない!あんたは真面目過ぎる!先生みたいだな!』
「はいはい、真面目ですいません。そんな真面目な僕は家に帰ってお勉強でもしてますね。」
『ごめんごめんって、冗談だよ~もうちょっと居ようよ~』
「嫌だよ。僕だって暇じゃないんだ。君みたいにのほほんとして人生後悔したくないんでね。」
『・・・そっかあ。』


彼女は僕に聞こえるか聞こえないかの声でそう呟いた。
「じゃあ、また明日ね!」


季節の変わるスピードは年々早くなっていく。

少しだけ目を瞑れば、グラスの中の氷はいつの間にか消えてしまうんだ。

11月、今年はやけに寒いな。
屋上でタバコを吸いながら、随分と遠くまでいってしまった君のことを思い出している。
特別な感情なんて何一つ持ち合わせてはいなかったが。


・・・そろそろ花を買いに行かなきゃな。
『あれ、先生こんなところで何してんのー?』
「・・・お前こそ、ここは生徒立ち入り禁止だぞ。」
『いやぁ~せっかく高校生になったんだし、屋上に行くのは欠かせないっしょ!・・・って、あれ?
なんか先生いつもと服装違くない?どしたの?』
「ん?ああ・・・。まあ今日はいろいろと用事があってな。」
『フーン。スーツとか着ちゃってえ~。変な感じ』
「変ってなんだ。さっさと教室に戻るぞ。」
『え~もうちょっと居たかったのに~。てか先生なんか背伸びてない?靴のおかげ?』


「・・・ばかいうな、さっき逢ったばかりだろう。」

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