【うたうたい】
2020年01月30日
そこはかとなく騒がしい野鳥に合わせ、少年の口ずさむ歌が聴こえてきた。
そこはかとなく騒がしい野鳥に合わせ、少年の口ずさむ歌が聴こえてきた。
『あれ、また背伸びた?』
彼女は僕を見る度にそう言ってくる。
「ばかだなあ。昨日会ったばかりだろう。」
茶色くなったくせっ毛を掻きながら「あれ~そうだっけ」とわざとらしくとぼけるんだ。
11月、少し肌寒くなってきた。高校って屋上に行けるもんだと思ってたんだけどなあ。
『でもさあ、屋上じゃなくたっていいじゃん。私はあんたと居れるならどこでも屋上みたいなもんだぜ。』
「それってどういうことだよ。僕はこんな薄汚い部室裏、そんなに好きじゃないんだけど。」
『にしし、まあそういうなって。残り僅かな学生生活だぜ?余すとこ無く楽しんでこうよ。』
「むしろ残り僅かだからこそやばいんだろ。君はもっと焦った方がいいよ。」
『ああああ聞きたくない!あんたは真面目過ぎる!先生みたいだな!』
...
甘い匂いが苦手な私はいつも柑橘の香りがする香水をつけている。
胸が痛くなるのは、もう泣けないからだと思う。きっと。
僕がこの先何十年生きたとて、到底見きれぬ世界がそこには広がっている。
ゴミを漁る。隣家、美しい女性が火曜日に出したゴミだ。
私を産み落とした男女は存るが、「金と食い物が無い」と言って私を売った。
灯篭のつくる影が妙に艶かしく、脱いだ着物に朝露が浮かぶ。
午後5時に君を迎えに行くよ。だからそこで待っていてくれないか。